有事関連三法案の参院可決を許さず、廃案に!
「イラク復興新法」制定・憲法改悪に反対しよう!

180余名が集い、
「イラク軍事占領と有事法制・憲法改悪に反対する5・17大集会」
を開催
有事法制・憲法改悪反対の運動の行く手についておおいに語る!
5月17日(土)中野区勤労福祉会館・多目的ホール

《主催》 憲法擁護・非核平和を進める中野区民の会
     民主主義と平和憲法を守る文京連絡会
     テロ特措法・海外派兵は違憲 市民訴訟の会
     日本国憲法をくらしに生かす会
     改憲とあらゆる戦争法に反対する市民ネットワーク21
《協賛》 週刊金曜日


有事関連三法案の参院での成立を何としても阻止し廃案にするために、他の四市民団体(憲法擁護・非核平和を進める中野区民の会/テロ特措法・海外派兵は違憲市民訴訟の会/日本国憲法をくらしに生かす会/民主主義と平和憲法を守る文京連絡会)との共催(協賛・週刊金曜日)で開催しました。
 会場の中野区勤労福祉会館・多目的ホールには、180余名が集まり立ち見がでるほど。ディスカッションでは次々と参加者が発言し、熱気あふれるつどいとなりました。

集会で採択したアピールの全文はこちらから御覧ください



プログラム
 開会あいさつ 菅谷与志江さん(憲法擁護・非核平和を進める中野区民の会 代表世話人)
 
 パネルディスカッション
  1. 問題提起 ・三輪  隆さん
(埼玉大学教授)
         ・丸山 重威さん
(関東学院大学教授)
         ・尾崎真理子さん
(大学生)
         ・神野 有生さん
(大学生)
  2. ディスカッション

 閉会あいさつ 川田 正美さん(民主主義と平和憲法を守る文京連絡会)

※以下はつどいにおいての全発言を記載したものです。<1>          < 1     >

司会)ただいまより「イラク軍事占領と有事法制・憲法改悪に反対する5・17大集会」を開催いたします。いま私たちをとりまく状況は、怒りなくして見ることはできません。有事関連三法案が、五月十五日に衆院本会議で、実に九割の議員の賛成によって可決されました。修正協議がなされた結果については国民にほとんど知らされないまま、一気に採決をおこなって通し、六月十八日までの会期中に成立させてしまおうとしています。これによって憲法がふみにじられ、日本が戦争を本格的にできる国に飛躍していく、そういう画期をなす事態がいま進行しています。
 そしてイラクにおいては、もう戦争が終わって復興だなどと言われていますが、いまのイラクの状況はアメリカによる軍事占領以外のなにものでもありません。これを絶対に許してはならないと思います。速やかにアメリカを撤退させ、悪辣な軍事占領を許さない運動をさらに大きくつくっていく、有事法制の制定を阻止していくための新たな出発点として今日の集会を実現したいと考えています。今日の副題では「みんなで運動の行く手を語ろう」と掲げています。ここに来ていらっしゃる方の中にも、あれほどイラク反戦の声がまき起こったのに、いまはどうなってしまったのだろうと思っている方も多いと思います。そういうことなどを出し合いながら議論し、いまの状況をどう変えていくのか、行く手をてらしだしていく集会にしたいと思います。最後まで、おつきあい下さいますようお願いいたします。

開会あいさつ  
有事法制とは何か?私たちは今後どうしていくのか? 共に深めましょう! 
  菅谷与志江さん(憲法擁護・非核平和を進める中野区民の会 代表世話人)

菅谷)こんにちは。私ども中野区でも、2月11日、有事法制に反対して雨の中、デモ行進をしました。行き交う人たちは「何をやっているんだ」というような素知らぬ方が多いなか、残念に思いながらも一生懸命アピールしました。

 有事法制は、日本が攻められたときに備えるための法案なのでしょうか? あるいは、アメリカの無法な戦争に加担する法案なのでしょうか?そのあたりが私としては大変疑問を感じています。にもかかわらず、私たちの代表であるはずの中央の議員はどんどん次の法案、次の法案へとことをすすめており、大変恐ろしいという思いがいたします。山崎拓・自民党幹事長は、有事法制が九割の国会議員の賛成を得て可決したのは「感動的だった」とおっしゃっていました。何が「感動的」か教えていただきたいと思います。この有事法制は、基本的人権の問題とか、いろいろとまだまだ細かいところもつめていただかなければ納得いく法案でないと私は理解しています。そういう意味で、パネルディスカッションの先生方にもお越しいただいていますし、その後に、みなさんともどもにディスカッションするなかで、少し私も有事法制なるものがどういうものか、日本の備えのものか、あるいはアメリカの戦争に加担するためのものかをもう少し知識を深めたいと思っています。

 それから、もう一つ、外に向けて日本は有事法制を成立させることで、アメリカに協力するという答えを出したのだと思います。しかし、日本国内では、この有事法制が私たちにどのような有利なものをもたらしてくれるのか、あるいはどのような心配をもたらすのかを、ディスカッションする中でみなさんも私同様に深めていただければ、今日の集会は幸せかと思います。

 また、理解しただけで済む問題ではありません。今後どうしたらいいのか、なお反対することで参議院で少しは足踏みをし、検討していただける時間が頂戴できるのか、そのへんはみなさんの盛り上がりにかかるのではないかと思います。ではご一緒にお勉強いたしましょう。よろしくお願いいたします。

パネルディスカッション

1.問題提起
いま、平和のために動くこと――三輪隆さん(埼玉大学教授) ※三輪さんのレジメはこちらから

三輪)
私は約六百人といわれる全国の憲法研究者のうち約百名の仲間と、「市民と憲法研究者をむすぶ憲法問題Web」というサイトを運営していて、今回も「有事法制に関する緊急声明」を出す運動などをしています(五月十七日現在で、賛同者が約百名)。私はこういう運動のセンター役で、私が倒れると憲法研究者の運動はつぶれるという、エラーイ位置にいます(笑い)。

 衆議院では、修正した有事関連三法案については何の実質的審議もしていません。よく分からない密室での修正合意だけで衆議院を突破したのです。つまり、議会は飾りになったのです。これにたいして新聞は、白々と「こういう問題で与野党が一致したのは画期的だ」と書いています。いわゆる防衛問題で野党第一党と与党との対立がなくなったのは今回に始まったことではありません。社会党がなくなってから、周辺事態法にしてもテロ対特措法にしても野党第一党は対立することなく通っています。画期的と書き立てるのは、あたかもこの法案が広い国民的合意の下に成立したのだと印象付けるためのものです。問題は、その民主党ですら昨年は反対せざるをえなかったような内容の有事法制が、その内容に実質的な修正を加えないままに成立した点にあります。

 有事法については十八日から参議院で特別委員会が始まります。速攻で進めると思います。共産党と社民党が質問したら、そのまま粛々と採決にいくと思います。これを止めるためには、率直に言って五月二十三日の集会では遅いでしょう。

法案の問題を少しも解消していない「修正」
三輪)
修正された法案は問題を少しも解消していません。しかも去年の段階では、ブッシュ米大統領は「先制攻撃戦略」をとるとチラつかせ始めてはいましたが、やってはいませんでした。しかしイラク侵攻で、もう実際にやったわけです。しかも今後もやると言っているのです。この時点で有事法制にイエスということは、日本の国家・社会が去年とは全く違う選択をするということで、これは日本のみならず世界的にも非常に大きな意味をもつものです。そのことを言うチャンスは、今週の前半がカギだと思います。

 どうすればいいのか、いかにメディアに取り上げさせるか。要するにいかに多くの人に分かってもらい、それによって国会の審議を少しでもまともにするかが問題です。残念ながら今の力関係ではハレンチな国会はこれを通すと思います。しかし通した後でも、どれだけ問題があるのか、どれだけ反対する人がいたのか、それによってその適用に事実上の縛りをかける可能性は増えると思います。私たちは、絶対それをやらないといけないと思います。そのために何が出来るかを、具体的にみなさんのご意見をうかがいたくて来ました。

ブッシュの先制攻撃戦略に日本がコミットするためのもの
三輪)
最初に法案の問題点について話をさせていただきます。
 一番の問題は、ブッシュの先制攻撃戦略に日本がコミットする選択をするということです。どういう時に有事法制が運用されることになるのか、それが「曖昧だ」と去年いわれました。しかしどんな概念規定をしても、無限にあり得る事態を全部網羅できないから、それを「武力攻撃事態」と言おうと「おそれ」と言おうとボーダーは曖昧です。問題は、「武力攻撃事態」とは別個に「武力攻撃予測事態」という規定を導入していることです。「予測」とは、いつからなのか。これは何と民主党が明らかにさせたのですが、政府答弁によると「予測事態」とは「周辺事態」、つまり一言でいうと米軍有事のことです。「周辺事態」は「我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」(九九年、周辺事態法)だと規定されており、米軍がそのような事態に突入したら自衛隊が後方支援するものでした。その「周辺事態」が起こったときにも、政府が「予測事態」だと認定できるのだと認めたわけです。

 民主党は「周辺」という言葉にこだわって、自衛隊が地球の裏側まで行かないように歯止めをかけると言いますが、すでに政府は「周辺事態」は「地理的概念ではない。状況概念だ」と言っているのですから、そんな歯止めは事実上ありません。いま一番起こりうる事態は次のようなことです。米韓首脳会議で、アメリカ政府は「北朝鮮」にたいして武力行使することは選択肢としてありうると何回も言いました。このような朝鮮半島における事態は、どうみても「周辺事態」です。ここで「予測事態」と認定され、日本の有事体制が立ち上がるというのがこの法制の仕組みです。「予測事態」と認定されたら、それにたいする対処基本方針を安全保障会議の諮問に従って閣議決定する。そして公示したら速攻で、それを執行するという仕組みになっています。

「国会統制の拡大」という飾り
三輪)
「国会統制」などとも言われますが、国会は事実上、対処基本方針を事後承認するだけです。方針が公示されたと同時に政府は国会にそれを付託し、審議が始まります。それと同時に対策本部は立ち上がり、自衛隊が動き始めるのです。それと並行で国会で審議されるのです。その結果、この方針が不承認になって初めてストップがかかるのです。これは事後承認でなくてなんでしょうか。この問題は修正協議でも何も触れられていません。

なぜ国会統制が必要なのか。有事体制、緊急体制は人権と民主主義を原則とする憲法体制にとっては、言ってみれば劇薬です。緊急状態だから一時権力を集中したり、人権を制限して対応しようというものです。使いようによってはそのまま独裁になり、元の憲法体制に戻れなくなることもあり得ます。だから、そこに移行するためにきちんとした手続きを踏まなければなりません。日本以外の憲法上軍隊を持っていると規定されている国でも、緊急体制のもとでの手続きは非常に厳密です。例えば、冷戦時代に西ドイツのように東ドイツと接しているところでは、ソ連の戦車部隊が入ってきているような状況を想定して、緊急体制に入るには野党も含めた特別議会の承認が必要でした。

 しかし今度の有事関連三法案では、まだ武力攻撃が起こっていない緊急事態でも国会の事後チェックしかありません。自衛隊が防衛出動する際には、いちおう国会の原則事前承認となっていますが、それすら例外的に事後承認でも良いとなっていますから、事実上事後承認で突破できる仕組みになっています。もし民主党がまじめに国会統制をきちんとするのであれば、事前統制の方をきちんとすることが筋だと思います。今度の法案は、国会が議決した時に首相は閣議に終結を提案しなければならないとしており、閣議が終結を決定しなければならないと書いてはいません。いずれにしろ、少し後に国会が口を出すというだけで、これで「国会統制を拡大した」というのはまやかしと言わざるを得ません。

「人権保障」のまやかし
三輪)
4月27日の『朝日新聞』は、「民主主義の原点」の立場に立って民主党の対案は検討に値すると言っています。私は頭にきました。民主党の原案にたいして私がメモを書いていたので、朝日新聞社に送りました。いろいろな人からの投書があったせいか、5月12日の「社説」では少し言い訳じみてきました。論説委員は読んでも分からないのでしょう。そこまで学力低下しているのです(笑い)。

 人権保障が拡充されたと言います。しかし実際はどうなのでしょうか。自衛隊が出動するときに物資保管命令が出される、土地が没収されたり、立木を切れなどと命令される。運輸・医療労働者などに業務従事命令が出される。それ以前にも、対策基本本部が立ち上がれば地方公共団体や指定公共団体が動かされる。そうすればそこで働いていている人たちは職務命令によって動かされます。そのときにストライキなんて事実上できなくなるでしょう。思想・信条の自由云々といってそういう仕事はやりません、ということも出来なくなるでしょう。実際にそういうかたちで人権規制がかかるのです。自衛隊の行動を報道しようとすれば、自衛隊法九十六条の二の「防衛秘密」規定によって、ジャーナリストや基地監視活動をしている人は捕まるわけです。たとえ人権保障というお題目を並べたとしても、それはせいぜい、政府の出先機関や自衛隊にたいする訓辞、心構えでしかありません。実際には「あなたは人権を侵害するというが、それは必要最小限度です。私たちは最大限度の人権保障をしている観点から、あなたにご協力願っているのです」というかたちで、しっかりと人権制限がかかってきます。修正合意で、憲法十四条、十八条、十九条、二十一条を保障すると書いていますが、では他の条文はどうか。十三条もありません。労働基本権(二十八条)も、財産権(二十九条)もありません。

「有事」とテロ・不審船などの対処を一緒 「危機管理庁」設置――民主党案の危険性
三輪)
また、民主党はテロ・不審船、大規模災害など総合的な危機対処を盛り込むという方向を打ち出しました。しかし、例えば阪神大震災の時には自衛隊のブルドーザーによって、がれきの下に埋もれた人を助けることはできませんでした。自衛隊のブルドーザーが出動したのは、戦車が突進するのに妨害物を除去するためであって、埋もれた人を傷つけないようにそっとガレキを取り除く活動はできないのです。日本は防災対策が不備なので市民には自衛隊にたいする期待が強いのですが、それを逆手にとって軍事的な対応と自然災害における対応をごっちゃにしています。

 テロは犯罪ですから、これは警察が対応する問題です。警察法71条以下にちゃんと根拠があります。海上保安庁法20条以下にも対処規定があります。しかし、これまでおろそかにされてきました。例えば「拉致事件」は、七〇年代に始まってからかなり早い段階で日本の警察も認知していました。しかし対応していませんでした。「不審船」も同じです。

 また民主党は、アメリカを真似して「危機管理庁」を日本に設けると言いますが、それは全く軍事的な組織ではありません。民主党はろくに勉強もしないで言っていますが、それを真に受けて『朝日新聞』は総合的に対策すればよいと言っています。もしそうすると、本来軍事でやる必要もないところに自衛隊の発言権が強くなり、人権制限もかかってくることになります。これはおよそ民主主義と自由にたいする基本的なセンスが欠けた姿勢だと思います。こういうごまかしをやったわけです。

 それを今後、国会で八百長質疑をして通していくと思います。メディアの側ではもう有事法はヤマを越した、その最後のセレモニーで一応反対意見や懸念する声も紹介しておくというものにすぎません。よほどきちんと声を上げていかないと、これに問題が少しも解消されていないということは多くの人に知られていかないと思います。どうやっていけばいいのか、是非ご意見を下さい。

アメリカのネオコンについていくことを決断した民主党
三輪)
最後に、〃有事法制への動きを加速させたもの〃についてですが、新ガイドラインがベースにあります。日本の政治経済支配層は、九〇年代後半以降、アメリカの軍事体制のもとでの日本の発言権を強くすることを追求しました。ただ、今の局面で大事なのは、九六年、九七年という橋本・クリントン共同声明や新ガイドラインをつくった時点からもう一歩先に行っているということです。確かにクリントンもモニカ事件をごまかすためとからかわれたわけですが、イラク爆撃をやりました。このように、先制攻撃のオプションはクリントン政権の段階でもちらついています。しかし、クリントン政権は同盟国と協調しながら、あるいは国連を〃尊重〃しながらグローバリズムに反抗する勢力をおさえていくことを追求したのであって、先制攻撃をすると必ずしも踏み込んではいません。しかしブッシュ政権は、何も9・11に始まったわけではありませんが、先制攻撃戦略をとるということをはっきりと打ち出しました。そして9・11によってそれをだいたい確立し、今度のイラク攻撃で実践したということです。
 こういう段階のアメリカ政権についていくことは、どういうことを意味するか。日本の政府要人や自衛隊員はさほど英語はできないから、戦争をするときにアメリカにとってはあまり役に立ちません。イギリスやオーストラリアの方が頼りになるし、自衛隊を前線にもっていくとはあまり考えられません。しかし、日本政府は今後、アメリカ政府についていこうとしているのであって、国際協調しながら世界秩序をつくっていくことを見限ったと私は思います。民主党も少なくとも昨年の前半までは、例えば典型的には二〇〇二年七月十八日の「政府法案の十項目の問題点」で、周辺事態にリンクして政府の恣意的な解釈によって日本が戦争に巻き込まれるおそれがある、と言っていました。
それからアメリカのイラク攻撃についても、これはちょっと問題だと言っていました。
しかし、ここに至ってああいう修正合意をしたのです。その中心になった民主党・前原誠司議員を考えると、ネオコンについていくというサインを出したということで、アメリカにとっても安心できるネクスト・キャビネットだという決断をしたのだと私は思います。私たちは、そういうものとたたかわないといけないのだということを考える必要があると思います。以上です。(拍手)

アメリカのイラク攻撃、有事法制…いまマスコミはどうなっているのか?
丸山重威さん
(関東学院大学教授)

丸山)
昨夜講師を頼まれまして、とにかく今まで考えていることをメモにしたのがお手元のレジュメです。とてもこれを全部お話しする時間はありませんので、いまの三輪先生のお話しを受けて必要なことだけをお話ししようと思います。
 資料の中に『朝日新聞』の「社説」があります。私はたまたま「独り歩きさせぬために」という「社説」(本誌九頁)を見て相当頭にきたものですから、『「なぜ」が深まる「朝日」社説』を日本ジャーナリスト会議(JCJ)のサイトに書きました。JCJのホームページに載っています。基本的な問題が全く指摘されないままに「土台」だとか「合意」だとかといって流れてしまう今のマスメディア、ここを一番問題にしないといけないと思います。

 現在、大体の常識としては、『朝日新聞』『毎日新聞』は改憲に反対する側で、『読売新聞』と『産経新聞』は改憲側であるということになっています。しかし、ここ一、二年で『朝日新聞』は大きく変質しました。これは、単に論説主幹が交代したから、というようなことだけではなくて、『読売新聞』を中心とした政治と結びついたマスメディアの動向と、どう対抗していくのか、あるいは関わっていくのか、という全体情勢の中で相当な迷いが出ているからです。しかも、この問題はそんなに簡単ではありません。長い間の流れがありまして、有事法制の問題については『朝日新聞』が変化をしてきたということは紛れもない事実だからです。

 1978年に福田内閣の時に、有事法制が提案されました。大きな問題になって、法案にはしないで研究だけしようということで始まったわけですが、その時に『朝日新聞』は「日本にとって有事とは何か」と題して次のような「社説」を書きました。
「戦後の日本は新憲法に戦争放棄を掲げて、いちおう最小限の自衛力を持つことにしていた。国際的公正と信義に信頼をおきつつ、各国との友好依存関係をふまえた広範な安全保障の機能を生かして平和を定着させようとしてきた。そういう中で、有事立法の動きは、そのような平和志向の流れに逆行しないか。また究極的には平和憲法の否定につながることはないか。そこにわれわれの不安はある」
 「今まで有事にたいする法制を整えずにきたことは、それ自体憲法の平和人権条項を厳しく守る姿勢の表明ともいえる。対外的には日本の平和意志を明らかにすることで緊張関係の醸成を抑えてきた。それを見落としてはいけない」
 そう言っているのです。こう言って、有事法制には反対の立場をとっていたわけです。

 ところが、昨年4月17日に有事関連三法案が提起された時に『朝日新聞』は、「これでは曖昧すぎる」と書きました。問題点をいろいろあげてはいますが、有事法制をつくること自体には反対しなかったのです。
 「ここは今国会での成立にこだわるのではなく、国民の前で徹底的に議論し、真剣に合意を求めていく姿勢が必要だ」、しかも「万一に備える法の整備は基本的には必要だろう」と言っていたのです。

 小泉純一郎首相のいうとおり、安全保障論議の土台は大きく変わりました。『朝日』は既に「与党だけではない幅広い合意形成の素地はすでにある」と六月の「社説」で言っていました。つまりその段階から、つるべ落としのようにというと言い過ぎかもしれませんが、マスコミの首座と自他共に許していた『朝日新聞』はそういう方向に行ってしまいました。

 しかしその中でも、有事法制の問題について、地方紙がかなりがんばっていたことも見逃したくないと思います。『北海道新聞』や『琉球新報』もはっきり「反対」と言いました。今朝の『しんぶん赤旗』には、『静岡新聞』『愛媛新聞』『神戸新聞』などを紹介して「地方紙が懸念」と報道しています。しかし、中央の大手紙は全体として崩れてしまったと言える中で、私たちはどうするか。『朝日新聞』に電話した方はかなり多いようですが、やはり、いろいろなところに激励したり抗議したりすることが大事だと私は思います。実際そうすることによって変化も出てきています。

米英軍からの視点と〃木だけ見えて森見えず〃――イラク戦争報道の問題点
丸山)
今回のイラク戦争の報道に関して、メディアがどうなっているかを簡単に紹介しておきます。
 ベトナム戦争の時代には、従軍取材といっても記者が勝手にくっついていったものでした。だから戦争の悲惨な実態がどんどん明らかになって、アメリカ国内で問題になりました。アメリカ政府はこの従軍取材について「メディアに負けた」と総括しました。

 その結果、次に考えたのが湾岸戦争の時の取材のさせ方です。つまり現場に行かせずに、プール取材にして代表だけを連れていくというものです。汚いものは見せずに、しかも戦果だけをきちんと見せる。あるいはその頃から広告代理店が入って宣伝するようになりました。有名な事件として「水鳥」の欺瞞というものがあります。油まみれになった真っ黒な水鳥を報道して、これはイラクが流した石油にまみれたものだと宣伝しました。結果的には、イラクが石油を流したというのはウソでした。あるいはイラク兵の残虐さを議会で少女に証言させた広告会社がありました。彼女は、「私は目の前でイラク兵がおなかから赤ん坊を取り出して殺すのを見た」などと涙ながらに証言するのですが、実はこの少女は大使の娘でイラクには行ったことがないと、後から『ニューヨーク・タイムズ』が暴露しました。

 このような取材のさせ方もどうも具合が悪い、ということで、あるいは「現場にちゃんと行かせろ」というアメリカのメディアの意見が採り上げられ、今回は大量の記者を従軍させることになりました。その結果として今回、五百人から六百人、あるいはそれ以上ということですが、多数の記者を登録させて「エンベッド取材」をさせました。各部隊に記者を割り当てて配置し、軍の行動を報じさせたわけです。

 その結果どういうことが起きたのか。確かに〃木〃は見えた。戦争を戦っている一つ一つの実態は見えたのだろうと思います。しかしそこには問題があります。それは、一つは「自分が従軍した部隊から見た視点」であることですし、もう一つは、「具体的な細かいことは分かるが全体がどうなのかさっぱり分からなかった」ということです。報道している方も分からない、ということが起こりました。

 そうなると、それを総合して編集する機能が必要なのですが、そういう体制は十分ではありませんでした。その結果、今回の報道は、イラク戦争が全体としてきちんと伝わったかどうか、が一番問題となりました。
 それでも、日本はまだ良かったのだそうです。日本は、イラク国営放送あるいはアラブのメディア、アル・ジャジーラなどの映像が次々と入ってきたから、ある程度、日本のテレビ局はこれを編集し、十分だったかどうかは分かりませんが、アメリカ一辺倒を避けようという努力をしたということができます。しかし、アメリカはこれを全部無視してつぶしました。だから、アメリカ国内で見ていた人に話を聞くと、日本で見た悲惨な映像が全く放映されなかったそうです。そういうかたちで戦争が伝えられないままにイラクの人々にたいする攻撃が続けられ、今もなお続いているということです。

 その最たるものが「やらせ」のフセイン像引き倒しだと思います。あれを、例のマードックが支配するFOXテレビなどが大々的に報道し、ブッシュ米大統領は「歴史的な事件」と称えたわけです。しかし実際は、ほんの五十人くらいの人が、しかも、その人たちは本当にイラクの民衆かどうかも分からない、どこかから連れて来られたかもしれないという話もありますが、そういう人たちが引き倒した、というものでした。引き倒せないから、最後は米軍の車が引っ張って倒しました。これはベルリンの壁が崩れたときとは状況が全然違います。にもかかわらず、同列視して宣伝されたのでした。

戦況報道ばかり行ったNHK
丸山)
日本のメディアはまだ良かったと、先ほど私は言いましたが、では本当に良かったのかというと、問題は簡単ではありません。例えば、NHKです。NHKは朝から晩まで、イラク戦争について、いろいろな報道をやりました。しかし、問題なのは、結局のところ戦況報道しかやらなかったことです。なぜこの戦争が始まったのか、この戦争で誰が得するのか、米国の論理はどうなのか、イラクは何といっていたか、国際世論はどうなっているか、国連ではどういう議論がされたか、本当に大量破壊兵器はあるのか、査察をやめさせたのは誰なのか、イラク国民はどう考えているのか、…。そういった基本的問題について、どんな報道がされたのでしょうか。ほとんどそれがなかったのではないかと思います。

 しかも、陣取りゲームみたいに「○○まで進みました。△△を占領しました。明日はこういうふうになるでしょう」という報道でした。これが本当に日本人が戦争を考える視点なのでしょうか? これをみなさんが気づいて、どうやって大きく問題にしていくか、そしてそれを変えていくかということが求められていると思います。

 新聞についても同じです。「侵攻」と「進攻」という問題がありました。『朝日新聞』『毎日新聞』は「侵攻」と書き、『読売新聞』『産経新聞』は「進攻」でした。共同通信の編集局の部長会では、「進攻」と書くという意見に対して「どう考えても主権国家に攻め入るのだから『侵攻』に決まっているではないか」と異論が出たそうです。しかし、「進攻」の表現が使われました。編集局長は「その評価は後になってからしか分からない」と説明しました。現場の記者からは、「それでは、記者の仕事はできない」との声が出ています。

 「侵攻」と「進攻」と聞くと、私などは以前の教科書検定での書き換え問題を想起しますが、マスメディアには、言葉一つとってもそのくらいの問題があります。イラクにいる米軍は『駐留軍』なのか『占領軍』なのか。占領軍であることははっきりしていますが、そういう言葉も使われていないようです。そうしたことが、読者のみなさんの意識を動かしていきます。このことについて、考えていかなければならない状況に来ています。

マスメディアを変えていく可能性は国民の声にかかっている
丸山)
メディアがなぜこうなってしまったのかについては、簡単に説明できません。基本的にはマスメディアというものは、大衆に向かって大量に情報を流すものですから、多数の共感を得るために、主張はあいまいになり、このことが当たり障りのない論説になってしまう、そうしなければ具合が悪いことになる、ということが実はあるのだろうと思います。しかし、それならそれで、国民全体がどちらの方向を向いているのかを見て、やはり平和を求めているということは疑いがないとすれば、もっとそちらの方に傾いていってもいいはずだ、と思います。

 ですから、例えば、有事関連三法案について全く審議もしないのに密室の協議で通してしまったことについて、それは何日も前から分かっていたのに報道しないで、後から実は連休後すぐ協議が始まったなどと報道することは、どうしても糾弾されなければならないし、みなさんの声を上げることによって問題を変えていく可能性があると思います。それをやらない限り、マスメディアは良くならないし、マスメディアが良くならないと全体も動かないと思います。ですから、私たちは一つ一つの問題にたいしてもっと敏感に反応して動いていく必要があるだろうと思います。

地域・現場に根ざした問題を掘り起こした運動を
丸山)
ですから、私は運動をしている皆さん、取材される側になった方々にお願いしたいのですが、記者ひとりひとりを変えていく努力が必要だと思います。記者ひとりひとりが、ジャーナリストとして自覚していくことは当然のことですから、それを促していただくことです。取材に来る記者とじっくり話して友だちになって下さい。そうして変えていかない限り変わりません。しかし、そういう人が一人いると、例えば先ほどの部長会のような場で異論が出ます。異論が出れば少しは変わる可能性があります。記者というものは、みんな本当のことを書きたいし、嘘は書きたくないのです。そして、結構まじめに物事を考えています。だからそこのところをどうやってほぐしていくかが求められているのではないかと思います。私自身はそういうかたちで育てられましたし、記者が学ぶのは現場であり、取材先であるのです。

 先日、自衛隊適齢者名簿が『毎日新聞』でスクープされましたが、私は37年前、大津支局にいるときに書きました。当時は「自衛隊適格者名簿」と言っていました。徴兵制反対ということに結びついて、反対運動がけっこう広がりました。社会党(当時)が調査団を組織して来ました。「名簿」は当時は全部手書きでしたが、書いている中身は今回と同じです。いま住民基本台帳があってコンピューターですぐ整理ができる時代に、ああいうことをやっているわけです。今回の有事法制に関しては地方自治体はみんな疑問をもっているし、実際にどうなるのかと困っています。やはりその辺りにたたかいの根っこが出来てくるだろうし、そういうことも含めて運動を広げていく必要があると思います。(拍手)

 
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