いまこそ有事関連三法案を廃案に!
「有事法制と憲法改悪に反対するつどい part2

(2002年9月29日 文京区民センター)


  主催  :民主主義と平和憲法を守る文京連絡会
       日本国憲法をくらしに生かす会
       憲法擁護・非核平和を進める中野区民の会
       改憲とあらゆる戦争法に反対する市民ネットワーク21

  協賛 :週刊金曜日

私たち反改憲ネット21と民主主義と平和憲法を守る文京連絡会、日本国憲法をくらしに生かす会、憲法擁護・非核平和を進める中野区民の会の4団体の主催(協賛「週刊金曜日」)で「いまこそ有事法案を廃案に! 有事法制と憲法改悪に反対するつどい Part2」を開催しました。
会場の文京区民センター(2A)には、120余名の市民が参加。
高橋哲哉さん(東京大学助教授)、河上暁弘さん(中央大学客員研究員)、大野和興さん(農業ジャーナリスト)、加藤次郎さん(「ときわぎ工舎」施設長)、細井明美さん(テロ特措法・海外派兵は違憲 市民訴訟の会)、樋山実さん(文京区職労執行委員)の6名のパネリストからの問題提起を受けて会場全体で4時間余にわたり活発な討論を行いました。

「つどい」の参加者全体で確認したアピールはこちらからご覧いただけます。
 
※以下はつどいにおいての全発言を記載したものです。

プログラム
 ・主催者開会あいさつ  川田 正美さん(民主主義と平和憲法を守る文京連絡会事務局長)
 
 ・パネルディスカッション
  パネリスト
   ・高橋 哲哉さん
(東京大学大学院総合文化研究科助教授)
   ・河上 暁弘さん
(中央大学人文科学研究所客員研究員・憲法学)
   ・大野 和興さん
(農業ジャーナリスト)
   ・加藤 次郎さん
(知的障害者通所授産施設「ときわぎ工舎」施設長)
   ・細井 明美さん
(テロ特措法・海外派兵は違憲 市民訴訟の会)
   ・樋山  実さん
(民主主義と平和憲法を守る文京連絡会/文京区職員労働組合執行委員)
  コメンテーター
    ・弓削  達さん
(東京大学名誉教授/反改憲ネット21世話人)

 .集会アピール

 ・主催者閉会あいさつ  弓削  達さん

司会)
ただいまより「いまこそ有事法案を廃案に! 有事法制と憲法改悪に反対するつどい Part2」を開会させていただきます。司会の片岡です。普段は大学で文学を教えていますが、きょうは、「日本国憲法をくらしに生かす会」の事務局長ということで司会を務めさせていただきます。
 有事法制は継続審議になりましたが、これは様々な運動の成果である一方、敵失による結果だと論評されてもいます。こういう中で僕らの目の前には、また新たなのりこえるべき諸状況がたちあらわれてきています。そのような状況をのりこえていくために、きょうの集会が成功裡に終わるように、みなさまのご協力をよろしくお願いいたします。

 

主催者開会あいさつ 
ますます有事法制が必要という環境がつくられる中で「つどい」の成功を!
――川田正美さん
(民主主義と平和憲法を守る文京連絡会事務局長)

川田)
本日はお休みの中、多数ご参加いただきましてありがとうございます。お手許の資料の中に、「有事・個人情報見送り」という記事(9・26付『朝日新聞』)がございます。これを見て、私は正直言ってほっとする反面、ちょっとまずいなと思いました。というのは、これを見た人が「この前の国会のように見送りになるんだ」と思えば、この集会の参加状況に大きく響くわけですね(笑い)。このことが主催者として非常に気になることです。

 しかし、同じ9月26日に与党三党が今度の国会では有事法制を通すのだと合意した、と報道されています。客観的な状況から見ても、アメリカは、イラクが核保有の査察を受け入れると表明したにもかかわらず、戦争をしかけようとしています。それを見て日本政府が動かないわけがありません。
 もう一つは、北朝鮮の「拉致問題」です。「やはり北朝鮮は危ない国だ」「ヤバイ国だ」と煽られ、全体に浸透しているわけですから「悪の枢軸」の三本柱の一つとされる〃北朝鮮は何をするか分からない国だから〃ということで、有事法制はますます必要だという環境になったのではないかと思います。
 もう一つは、やはり憲法調査会の動きですね。いま「中間報告」が審議されていますが、この「中間報告」のメンバーというのは改憲を志向する勢力が圧倒的であるから、改憲を志向する狙いはいっそう強まっていると思います。
 
 きょうの集会は多彩なパネリストをお招きして、それぞれの持ち分でさまざまな角度から現在の状況を存分に語っていただこうと思いますので、多様なお話しが聞けるのではないかと思います。最後に、主催者としてお願いですが、持ち時間が半日と限られております。一人でも多くの方が発言されるようにみなさんのご協力をお願いします。

パネルディスカッション
 
1.パネリストからの問題提起


「ジコチュー」の克服と「他者への想像力」の大切さ
             ――高橋哲哉さん
(東京大学大学院総合文化研究科助教授)
高橋)
よろしくお願いします。
有事法制は日本国憲法違反であり、日本国憲法の平和主義を完全に無化してしまう、日本が戦争をするための法律であることは、このかんの報道や議論のなかでみなさんもご存じだろうと思います。確かに今回、反対の声もあがりましたが、前の通常国会では敵失によって継続審議になった。にもかかわらず、依然としてこれがでてくる。だからこそ、私たちは批判の動きを継続し
なければならないと思います。

 この会でも、有事法制についていろいろな議論が行われてきて、論点はほぼ出尽くしているのではないかと思います。私に、日本の世論を説得できるようなウルトラCを持っているのじゃないかと期待されてもそういうものはありません。私はむしろ、堂々と正攻法でこれを批判していく以外にはないと思います。
 きょうは、なぜこういう法律がいまでてきており、それにたいする批判の声が必ずしも圧倒的な声にならないのはなぜか、この点について問題提起をしてみたいと思います。

「ジコチュー」――被害者にならないと動かない日本社会

高橋)
私は、大きく分けて二つの問題を提起したいと思います。一つは、一言でいってしまえば「ジコチュー」という問題です。「ジコチュー」というのは自己中心主義のことですが、この問題は歴史的な、日本の近代史そのものに根ざした非常に根深い問題だと私は思います。日本社会そのものが、被害者という立場にならないと動かない。このことについて、とりあえず「ジコチュー」という言い方で語ってみたい。

 人間というのは、一般的には「ジコチュー」の部分を必ずもっている。私利私欲を追求することは誰でも社会生活のなかでやっていることで、これを完全に否定してしまったら私たちはおそらく生きていくことすらできません。しかし、戦争やその他の暴力によって被害を受けている人々がそこにいて、被害者から声が発せられているにもかかわらず、自分自身の損害に及んでこない限り、これにたいして何ら想像力を働かせることができない、あるいはコンパッションといいますか、苦難の感情を共有することができないというような非常に根深い自己中心主義の傾向が、この国の社会に根づいてしまっているのではないか、とあらためて私は感じています。
 そのあからさまな例が、日朝首脳会談以後の、日本のメディアの反応、そしてそれに影響されつつある世論の状況だと思うのです。

「拉致問題」がすべてであるかのような日朝会談の報道

高橋)
ここで日朝会談に触れたいのですが、私は小泉首相が平壌に行くと発表した時に、ある意味で期待したところがありました。訪朝前からいろいろな情報が飛びかっていましたが、日朝首脳会談によって少なくとも話し合いが始まり、北朝鮮との緊張が緩和されるのではないかと思ったわけです。
 ところがどうでしょうか。日本人拉致事件について、日本政府が確認していた以上の被害者がいて、しかも多数の死亡者がでているという衝撃的な報告が出てきました。確かに金正日総書記はお詫びし、責任者を処分したと言っているのですが、その処分がどういうものかまったく分からないし、実は安否情報の真偽すら疑わしいことがでてきてしまったわけです。私は、被害者が驚き、怒り、憤るのは当然の感情だと思います。ですから日本のメディアがそれを伝えるのも分かる。被害者からは、さらなる真相究明や補償も必要だという声がでていますが、私は、これは国家の犯罪の犠牲者になった人の立場としては当然の要求だと思います。しかし、日本のメディアはこれのみを強調しており、日朝間の問題は「拉致問題」がすべてであるかのような報道がなされています。

 このかん戦後責任、戦後補償の問題にかかわってきた立場から申しますと、日本の植民地支配とアジア・太平洋戦争中の戦時動員で、朝鮮の人々に巨大な被害をもたらした。その被害者が今もまた大量に朝鮮半島に現存している。それらの人々に日本がどのような補償をするのかが実は大問題だったのですが、この問題については経済協力という方式になって、補償や賠償にはならなかったわけですね。これは植民地支配が合法だったという日本政府の立場を押し切ったということです。この問題はまったく議論されていません。

 世論調査では「拉致問題」は納得できないが首脳会談自体は評価する、とか、国交も正常化するべきだ、というのが過半数ですから、まだ世論の方が冷静だと思いますが、しかしこのかんのメディアの報道ぶりからして、世論がどんどん変わっていく可能性は否定できない。そうしますと「結局、北朝鮮というのは『悪の枢軸』だ。ブッシュの言うとおりではないか」という議論がでてくるわけですね。「人殺し国家」「テロ国家」「ならず者国家」「犯罪国家」という見出しが週刊誌等で踊っています。これから月刊誌やその他がでてくると、ますますそうなってくると思います。そうすると、有事法制にたいする追い風になってしまうおそれが強い。私たちは、有事法制に反対するうえでも、この問題についてきちんと考えなければなりません。

最大のネック――他者への想像力の欠如

高橋)
私は、このかんの日本のメディアの報道や世論の動きを見ていて、自分たちの被害については極めて深刻に受けとめるが、それより前に日本が相手方に及ぼした被害についてはほとんど無関心で想像すらできない、そういう日本の「体質」が露わになってしまったと思います。たしかに「拉致事件」はとんでもない犯罪だと思います。しかし、国家犯罪ということならば、これまで日本にたいして朝鮮からくり返し言われてきました。「慰安婦」の被害者もいれば強制連行された人もいる。戦後半世紀、安否についても何の連絡もなければ補償もない。そういう中で声をあげることすらできずにずーっときたわけです。

 この「体質」は、有事法制問題についても大きなネックになっていると思います。有事法制は日本が他国から攻められることを前提にしてつくられているのですが、しかし今の状況からいうと明らかにアメリカの戦争に日本が加担していくときに発動される可能性が高い。いま日本がアフガン戦争に参戦している、さらにアメリカがイラクにたいする先制攻撃を主張している状況のなかで、私たちは「日本が殺す側に立ってしまっていいのか」と主張するのですが、やはり日本の世論、日本社会の大勢は動いていないんですね。関心すらない人が多いわけです。どうしてこういうことになっているのか。実際には、日本の参戦によって日本が殺す側に立ってしまっており、イラクにたいしてまた大規模な攻撃が行われようとしている。それが世界中にグローバルに広がろうとしている危機なのですが、私たちの社会はそこで動けない。他者の苦痛や苦難にたいして想像力を働かせることができないということが、私たちの社会最大のネックになっていると思います。

歴史的につくられた「ジコチュー」

高橋)
しかし私は、これは〃国民性だから変えることができない〃とは思いません。これは歴史的に形成されたものだと思うからです。だから変えることもできるはずです。大雑把に言えば戦前の日本は「脱亜入欧」で列強の仲間入りをしようとしてきて、結局戦争に勝って列強の仲間入りを果たしたわけです。その「成功」体験を自己批判することができなくて、中国への戦争で泥沼に入りアメリカと戦争して負けた。
自分たちの立場を根本から疑うことができずに突っ走ってしまった。
戦後は「脱亜入米」といいますか、アメリカとくっついて経済的に「成功」した。いわば、その自分たちの「成功」体験、既得権益を疑うことができないために、他者の苦悩にたいする想像力を及ぼすことを忘れてしまったのではないかと思うのです。私たちとしては、この部分をいかに克服していくかが大きな問題です。

『暗黒日記』にみる「ジコチュー」の指摘

高橋)
ここで、清沢洌(きよさわ きよし)というリベラリズムの立場に立った戦前のジャーナリストが書いた『暗黒日記』(岩波文庫)をご紹介したいと思います。彼は反戦の言論活動をおこなっていたのですが、治安維持法その他によって弾圧されて公に発言できなくなった。そこで1942年から1945年まで日記をつけて後世に残そうとしたわけです。この中の1945年1月1日の記述を読むと、いろいろなことを考えさせられます。

 「空襲警報が夕べも鳴って、一晩中寝られない有り様だった」
 「にもかかわらず配給のお餅をもらって、おめでとうをいうと元旦らしい気分になる」
と書いた上で次のようなことを書いています。

 「日本国民はいま初めて戦争を経験している」
 「戦争は文化の母だとか、百年戦争だとか言って戦争を賛美してきたのは長いことだった。僕が迫害されたのは反戦主義だとい  う理由からであった。戦争はそんなに遊山に行くようなものなのか。それをいま彼ら(日本国民)は味わっているのだ」
、と。
つまり、日本は明治以来、日清戦争、日露戦争、第一次大戦、それから満州事変、日中戦争とずっと戦争してきていました。にもかかわらず彼は、戦争の最後の年の四五年の一月一日に、自分たちの頭の上に焼夷弾が降ってきて初めて日本国民は戦争を経験していると言っているわけです。実際には中国戦線などで傷ついたり、死亡したりした兵士たちが次々とでていたわけです。ですから家族や遺族たちは辛い経験をしていたとしても、国民全体としては爆弾が降ってこないと戦争をしているという実感すらもっていなかった、と言っているわけです。

 その後は、こう続きます。
 「だが、それでも彼らが本当に戦争に懲りるかどうかは疑問だ。結果はむしろ反対ではないかと思う。彼らは第一、戦争は不可  避なものだと考えている。第二に彼らは、戦争の英雄的であることに酔っている。第三に、彼らには国際的知識がない。当分  は戦争を嫌う気持ちが起こるであろうから、その間に正しい教育をしなければならない。それから婦人の地位をあげることも  重要だ」。
当時の女性には参政権すらありませんでしたから。
 「そして、日本で最大の不自由は、国際問題において相手の立場を説明することができないことだ。日本には自分の立場しかな  い。この心的態度を変える教育をしなければ、日本は断じて世界一等国となることはできない。全ての問題は、ここから出発  しなくてはならない」。
ここで彼は「ジコチュー」ということを指摘しているのです。
 
戦後は対米関係においてだけはあまりにも「相手の立場」に立っていて自主性がないのですが、しかしアジアの諸国にたいしては依然として相手の立場に立つことができない。被害者の苦しみを想像することができないところが、いまあらためて問われているのではないかと思います。それが一つです。

天皇制と有事法制

高橋)
もう一つは、簡単に言ってしまうと天皇制の問題です。
有事法制の問題でなんで天皇制なんだ? と言われるかもしれませんが、これは憲法問題ですから当然かかわってきますし、私がここで問題にしたいのは、これまでの「護憲運動」が天皇制の問題を提起できなかったということです。

 改憲派は憲法九条を攻撃してくるのだから憲法を守るという立場に立たないといけない、憲法第一条を問題にすることは改憲を提起することになってしまうから、憲法擁護の立場に立つ以上はそれはできないのだということで提起できなかった面があります。これは、政治戦略としては理解できることだと思うのですが、なぜ私たちがこういう状況に追い込まれているのかを考えると、これまで九条を攻撃してきた勢力の中心部分は、日本の戦争責任が曖昧にされたために復活してきた勢力だということを、あらためて考えてみなければならない。つまり、あの戦争の最高責任者であった昭和天皇が、アメリカと日本のいわば野合によって免責されて、象徴天皇として政治的に生き残ったわけです。その結果として、さまざまな戦前の保守勢力が戦後も復権してきた。その象徴が岸信介首相だと思いますが、それ以外にも天皇制が生き残ったことによって復権してきた人たちが、次々に九条を空洞化してきたわけです。つまり、九条問題と一条問題は戦後もずっとリンクしてきたということなんです。

自衛隊は国民を守らない――元自衛隊トップの証言

高橋)

ここで一つご紹介したいのですが、有事法制問題を考えるときには必ずでてくる人ですが、1977年に統合幕僚会議の議長になった栗栖弘臣は78年に「超法規発言」をして、当時の防衛庁長官によって解任されました。この人が2000年に『日本国防軍を創設せよ』(小学館文庫)という本をだしました。この中で彼は「国を守る」というのは〃国民の生命や財産を守ることではない〃とはっきり言っています。

「今でも自衛隊は国民の生命、財産を守るものだと誤解している人が多い。政治家やマスコミも往々この言葉を使う。しかし、国民の生命、身体、財産を守るのは警察の使命であって、武装集団たる自衛隊の任務ではない。自衛隊は国の独立と平和を守るのである。この場合の国とは、わが国の歴史、伝統にもとづく固有の文化、長い年月のあいだに醸成された国柄、天皇制を中心とする一体感を共有する民族、家族意識である」。
要するに、「国体」ということです。
「決して個々の国民を意味しない。もし個々の国民を指すとすると、自衛官も守られるべき国民であるから生命を犠牲にすることは大きな矛盾である」、と。

 これは、「国体護持」ということがそのまま生き延びているということです。多くの人たちは「備えあれば憂いなし」「攻められたらどうする? やはり自衛隊に守ってもらわなきゃ」というので賛成してしまっていると思うのですが、果たして日本の自衛隊は何を守るのか、このことをあらためて問わなくてはいけないし、戦前の軍と今の自衛隊がどういうふうに違うのかも問わなくてはいけないと思います。憲法厳守という立場に立てば、自衛隊そのものが否定されなくてはいけないのですが、「備えあれば憂いなし」という言葉にもっていかれる人に、本当に国民の生命が守られるのかということを考えてもらう。その論理をつきつめていく中で軍隊によって国民の生命を守ることはできない、ましてや日本の中には「国民」以外の人もいるわけだから戦争をすれば日本社会がめちゃくちゃになってしまうということを訴えなくてはならないと思うのです。

 「ジコチュー」と天皇制という言葉で集約しましたが、私たちがいま取り組むべき根本的な課題としてそういうことがあるのではないか、ということを問題提起させていただきました。どうもありがとうございました。

 

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