・コラム〜1/20討論から
 「不審船」取り締まりのために武力攻撃は当然?有事法制も必要?

私たち「反改憲ネット21」が1月20日に開催した
「改憲・有事法・日本の参戦について考える」つどいで議論になったことの一部の紹介です。

1月の『朝日新聞』の世論調査では、61%の人が有事法制に賛成と答えています。    
その場合に、昨年12月に起きた海上保安庁による「不審船」にたいする武力攻撃・沈没事件や9・11事件などを契機に日本政府などが、「不審船」「テロ」に対応するためにも有事法制が必要とキャンペーンしていることに影響されているようです。
このようなキャンペーンについてどのように考えるのか。その一助として、ご検討いただければ幸いです。
なお、誌面の都合上、各発言は編集しています。
一切の責任は、『通信』編集担当者にあります。ご了承下さい。


 「北朝鮮の船だから攻撃していい」?

大学生・女性)
「不審船」事件について、私の友人は「北朝鮮の船だから攻撃して当然」と言うんです。
 私はびっくりして「じゃあフランスの船だったらどう思う?」と聞くと、「それは国際関係上まずいからだめ」と言うんですね。要するに、相手が北朝鮮なら何をやっても構わない、みたいなムードがあると思います。ここをどう考えたらいいか、ご意見を聞かせてください。
河上暁弘さん)
警察(海上保安庁)も軍隊も場合によって武力行使しますが、警察の武力行使の目的は、あくまでも被疑者を取り調べて裁判過程にのせることです。したがって、警察の武力行使については特に厳格に法で制限されています。ところが、今回はものすごく撃った。警察行動というより軍事行動に近いことを海上保安庁がやったわけです。しかも、領海ではなくて排他的経済水域でやった。これらはとんでもない話です。
 さらに、今回の事件から有事法制の議論に持っていくのは、まったくの議論のスリカエです。今回の事件について議論するのなら、あくまでもそれは警察をどうするかという議論の中でやることです。
 それから、日本国民は北朝鮮にたいして、いい感情を持っていないふしがあります。しかし、いま南北朝鮮は南北友好の空気になっています。板門店の近くにある学校でも南北会談で金大中と金正日が握手した時の写真が飾ってあります。もう南北友好の流れは止まりそうにない情況にあります。ところが、この南北和解の流れを妨げているのがアメリカなんですね。そのアメリカにしたがって、やれ「不審船だ」とか、やれ「拉致疑惑だ」とか言っているのが日本です。しかし、犯罪としての誘拐事件はあるのかもしれませんが、北朝鮮国家が政策として「拉致」をやっているかのようにいわれているのはおかしな話しだと思います。例えば、「拉致」が「日本語教育のために」と言われたりしますが、北朝鮮には山ほど日本語をしゃべる人がいます。ご存じのとおり植民地支配が長かったからです。しかし、このような根拠の曖昧な議論が次々とでてくる。そうなるのは、いまなお日本と北朝鮮とが国交を正常化していないことにも根拠があります。相互に大使館を置いて、何か問題が起きたらそのルートを使って抗議すればいいわけです。しかし、外交関係がないからできない。その他方で危機を煽る。それでお互いのタカ派が得をしているわけです。北朝鮮も一枚岩ではなくタカ派がいます。だから何かある度に日本がこういうことをすると喜ぶのはタカ派です、ハト派はひっこむ。タカ派同士が喜ぶような「タカ派共同体」ではなく「ハト派共同体」をいかにアジアでつくれるかが課題ではないでしょうか。
会社員・男性)
「不審船」事件の報道をテレビで見ての感想なのですが、これは日本政府が本当にやる気でやったな、歴史的瞬間だと思いゾッとしました。
 〃不審船が逃げちゃうから攻撃した〃というのではなくて、あらかじめ知っていてやった。これは日本だけでなくアメリカの意志だと思います。そして、そのアメリカと日本がいま何をやっているかというと、アフガンを空爆している。つまり日本は、単に後方支援だけでなく、前線に出てやるという決意を込めてやったのではないかと思います。それでゾッとしました。
 ところが、新聞では「不審船」というのを大前提にして、この取り締まりの仕方がどうなのかだけを問題にしている。そして、有事法制だと。やっぱりこれを狙っていたんだと思いました。
河上)
「不審船」と言われていますが、何をしに来ているのか? 「情報収集」とか「テロ」とかともいわれていますが、「情報収集」や「テロ」をするために、わざわざあんなに目立つ船で来るわけがありません。
 今回の事件から有事法制の議論にもっていくことは、まったくおかしな話なんですね。
大学生・女性)
マスコミでは、魚の網がのっていないから不審だとかいわれていましたが、あらためて考えると、それだけとれば不審とはならないですね。それでいて、「北朝鮮が…」といわれると、何か危ない、みたいな…。
枝 光さん)
アメリカや日本は一所懸命、北朝鮮とのあいだが平和じゃない、安心するなと国民に知らせている。でも、北朝鮮の拉致事件なんてよく言えると思います。
 かつて日本は、北朝鮮の人をどんなにたくさん日本に連れてきて強制労働に使ったか。今も子孫が苦しんでいる。それにたいしては何も答えないで日本から連れていったことだけを問題にしている。朝鮮にたいして日本がどういうことをやったかをちょっとでも勉強したら、あんなこと言えるわけがない。私は本当に腹が立つ。日本人は、なんて図々しいんだろうと。日本はアメリカにばかり媚びをうっているけれど、アジアにちゃんといられるような日本でなければダメになってしまうと思います。
大学生・女性)
いまのお話を伺って、私の感覚とすごく違うと思いました。北朝鮮を変な固定観念で見ないようにしようと思っていても、見てしまっている自分に気づいてハッとします。
枝)
北朝鮮の国内事情はいろいろあると思います。しかし、それは日本が介入する問題ではない。日本と北朝鮮の関係が歴史的にどうだったのかを考えれば、日本はそういうこと言えた義理じゃないと私は思います。
男性)
僕は、敗戦のとき小学校二年生でした。日本人は朝鮮の人をバカにして鉱山や炭坑に連れていったりむちゃくちゃなことやってきた。しかし、そのことについての教育を全然受けていないからわからない。しかも、北朝鮮についてだけでなく、今の憲法や日本の歴史についても何も知らない。そういう中で憲法改正がどうのこうの論議すること自体情けない気がします。ここを真剣に考え直していかないと大変なことになると思います。
 それから、僕は「不審船」事件の時、たまたま公開番組でNHKのスタジオに行っていたのですが、その途中で「今日は大した事件が起きてなくて、北朝鮮の船が進入してきたけど逃げたから大したことはありません」というニュースが入ってきました。
 結局、入ってくる情報はアメリカに報道統制されたものだから、よほど真剣に目を開いて物事を見ないと流されてしまうんじゃないかと思います。
 
海上保安庁の強化なら良い?

教員・男性)
今回の「不審船」は、北朝鮮が国家としてやってるというよりはもっと低レベルの、例えば麻薬の取引とか、そういう類のものではないかと思います。それでも、ロケット砲を持っていて海上保安庁の二人がケガをしましたので、防弾ガラスを強化するなど、海上保安庁がきちっとやるべきだと思います。
 それと運動としては、海上保安庁に抗議するよりは、自衛隊に連携するな、不審船は海上保安庁に任せろという世論をつくる方がいいと思います。みなさんと意見が違うかと思いますが、「不審船」は治安の意味でまずい。きちっととらえて裁判にかけるべきです。問題は、絶対に自衛隊と連携させないことです。
公務員・男性)
それはどうかと思います。
 今回は、海上保安庁がぶっぱなして沈めたことに国家の意志、トップの意志があると思うんですね。日本が海外にたいして、特に北朝鮮にたいして、来たらやっつけるぞという意志を示し、現実にやった。海上保安庁の強化は必要というと、むしろ海上保安庁を自衛隊のように強化することにつながっていくのではないかと思います。
教員・男性)
たとえば、「不審船」のスクリューに網をかけて止めちゃうとか、そういうことを海上保安庁ができるようにするというのはどうでしょうか。同じことを軍隊である自衛隊がやるのはダメだが、海上保安庁ならいいでしょ? そうしないと捕らえられない。
会社員・男性)
私は、自衛隊や海上保安庁を持っている人、すなわち政府がどういう意志でやってるのかということにもっと目を向けるべきだと思います。今の日本政府はアフガンでアメリカに協力している政府です。初めて参戦した政府が今回海上保安庁を使ってやったんです。この危険性をもっともっと問題にすべきだと思います。
 ところが、社会的には、その問題性がなかなか浮かび上がらない。海上保安庁がどこまでできるようにするかという議論は、政府がどういう意志でやっているのか、それを許していいのかという方向に向かわない議論だと思います。そこにもどかしさを感じます。
教員・女性)
「不審船」事件の少し後に、「筒状の中からでてきた五、六人が江ノ島に上陸」というニュースと北朝鮮籍の船がいるというニュースが一緒になって「こういうニュースがインターネットで流れています」と、教育委員会から職場に全部流れてきました。
 江ノ島のことは、次の日にウソだったと明らかになりましたが、職場の同僚は、その後、不審者から教え子を一所懸命守る夢を見たというんですね。その人は「北朝鮮脅威」を煽るのはおかしいという人です。そういう人でもそんな夢を見るのかとびっくりしました。
 そもそも、「インターネットで流れていた」からといって、そんな情報を教育委員会がそのまま流すということもおかしいことです。すごくまずいことだと問題にしていかなければと思っています。
枝)
何かピリピリしてる感じがあるんですよね。

 「テロ根絶」のためなら何をしてもいい?

枝)
いま、「テロにたいしてならしかたがない」というように、すべての言い訳が「テロ」になっています。
 しかし、考えてみれば、パレスチナの問題も最初にテロをやったのはイスラエル。それにアメリカがアフガンでやっていることはテロじゃないのか? アフガンでは子供が飢え死に、普通の人もどんどん殺されています。
 私は、そもそもアメリカは戦争をしたかったのではないかと思っています。戦争を起こしてアフガンの豊かな石油をとりたい、軍需産業を興したい、と。アメリカは日本に「あなたたちは兵器を売らないというが売ればいい、そうすれば不況を打開できる」といっているそうです。石原都知事も日本は自前のミサイルをつくるべきだといってます。兵器をつくって・売って・戦争をやって・不況を打開する、そこまできているのではないかと思います。
河上)
暴力を否定する立場からはテロは認められないものだと思うのですが、それが起こる原因を取り除かないといくらでもそういうことが起きます。
 ノーム・チョムスキー氏は、彼の著書・『9・11』で「アメリカこそ最大のテロの親玉国家」だと言っています。ニカラグアなどの様々な所で、独裁政権を支えたり、テロリストを育てたり、送り込んだりしてきた親玉がアメリカではないかと。
 ところが、アメリカ人は自分がやられたり、あるいはソ連がアフガニスタンに侵攻したらけしからんと言いますが、自分がやると「正義の行動」だと言う。それは、強弁するだけじゃなくて、そう思っている節がある。なぜこんなテロが起きたのか、というと「嫉妬されている」と思っているんですね。つまり富をたくさん持って自由の国だからやられた、と。
 しかし、そうではありませんね。アメリカは世界中ですごい抑圧的な行動をやってきた。特にイスラエルの行動はすべて支援しています。人権や民主主義は、イスラエル国境から先には入ってこない。相当たくさんの虐殺をイスラエルが行っても、アメリカはずっと支持し続けています。
 国際司法裁判所が「あなたの国はテロ国家だから違法だ」と判決を下したことが一回だけあります。一九八六年です。それはアメリカにたいしてです。当時、ニカラグアがアメリカに軍事介入された時に、ニカラグアはアメリカに爆撃したのではなくて国際司法裁判所に訴えた。そして審理が行われてニカラグアのおっしゃるとおりだ、これは違法だ、という判断が下されたのです。ところが、それを実行しようとしたときに、国連安保理事会で拒否権を使ったのがアメリカです。それから、国連総会で法と裁判の原則は大事だという決議を出したら、それに反対したのもアメリカです。そういう国が、「テロ撲滅」を掲げて空爆をやるのはすごい自己矛盾です。
 しかも、これまでアメリカが、どんなに他の国に軍事攻撃をしても、あるいは、アメリカがテロリストを送り込んでもアメリカが空爆を受けることはない。されたらアメリカは当然報復するでしょうけれども…。
 こうして、自分がやってることは全然反省されていないアメリカはどうなんだと、チョムスキー氏は詳しく論じています。


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