反改憲ネット21通信46号より、投稿記事を掲載しました。
自民党「憲法改正プロジェクトチーム『論点整理』」について


 自由民主党の政務調査会によって設置されている「憲法調査会」が「憲法改正プロジェクトチーム」を結成して独自の改憲案を策定しているというが、この六月に『論点整理(案)』として、今後の改憲案作りのたたき台を用意した。ここでは『論点整理(案)』のもつ問題点を指摘してみたいと思う。

 1.総論について

《新憲法が目指すべき国家像について》から引用
「新憲法では……国と国民の関係をはっきりとさせるべきである。そうすることで、国民の中に自然と『愛国心』が芽生えてくるものと考える。」

(感想)ここでは、愛国心を醸成することが目的で、そのた めに「国と国民の関係をはっきりとさせる」となっている が、憲法を何か政治目的の手段として捉えてしまっている。 目的と手段が逆転している。

《21世紀にふさわしい憲法のあり方に関して》から引用
「新憲法は……人間の本質である社会性が個人の尊厳を支え る「器」であることを踏まえ、家族や共同体が、『公共』 の基本をなすものとして、新憲法において重要な位置を占 めなければならない」

(感想)「個人の尊厳」(現一三条)は、読んで字のごとく 「個人主義」を標榜するもので、現憲法の〃核〃たる価値 である。全体主義の教訓から、現代憲法では表記するのを 控えるべきとされた「社会性」やら「公共」を持ち出して しまっては、結局「個人の尊厳」の価値が没却されてしま いそうだ。

《安全保障の分野について》
「新憲法には……わが国の独立と安全をどのように確保するかという明確なビジョンがなければならない。同時に……国際平和に積極的能動的に貢献する国家であることを内外に宣言するようなものでなければならない」

(感想)日本の安全保障と、国際平和への貢献を同一次元で捉えていることから、ここでいう国際平和は自衛隊派遣を前提とした〃武力に裏づけられた平和〃を是としていることが分かる。


 2.各論について

一、前文
《共通認識》から引用
「現行憲法の前文については、これを全面的に書き換えるものとすることで、異論はなかった」

(感想)全面改正というのは、憲法を制定した当時の憲法制定権力(制憲権)が想定した改正の範囲を超えるものであり、これはもはや憲法の改正ではなく、憲法の〃破棄〃であろう。

《前文に盛り込むべき内容》から引用
「国民誰もが自ら誇りにし、国際社会から尊敬される『品格ある国家』を目指すことを盛り込むべき」

(感想)「誇り」とか「尊敬」といった内容については個々人の判断に任せるべきで、法律上の用語としてふさわしくない。「国柄」もまた然り。仮に「国柄」というものがイメージできるとしても、それを規範化することで、国柄と相容れない〃具体的な〃個人の権利を抑制することに繋がろう。

同《前文に盛り込むべき内容》から引用
「近代憲法が立脚する個人主義が戦後の日本においては正確に理解されず、『利己主義』に変質させられた結果、家族や共同体の破壊につながってしまったのではないか」「利己主義を排し、『社会連帯、共助』の観点を盛り込むべきである」

(感想)個人主義を正確に理解しても、それが「家族や共同体」の尊重につながるわけではない。何度も念を押しておくが、「家族や共同体」を尊重するという理念は近代憲法の精神から逆行する。それならむしろ利己主義と解釈したほうがまだ適正と考える。

三、安全保障
《共通認識》から引用
「自衛のための戦力の保持を明記すること」

(感想)小泉首相のホンネが条文となった形。戦力不保持の憲法として、第三世界などの他国から注目されてきた日本国憲法が光を失ってしまう一文である。

《安全保障に関し盛り込むべき内容》から引用
「個別的・集団的自衛権の行使に関する規定を盛り込むべきである」

(感想)米・アーミテージ国務副長官の発想を事実上受け容れた形となっている。ここまでくると、現行の憲法第九条はほとんど死文化してしまう。平和主義という基本原則はどこに反映されるというのか。

同《安全保障に関し盛り込むべき内容》から引用
「集団的安全保障、地域的安全保障に関する規定を盛り込むべきである」

(感想)こうした他国との安全保障協約については、国際法にて規定するべき事柄ではなかろうか。また、日本が全世界的な国際協力を目指すと憲法上規定する一方、地域的安全保障の規定を置くのは一貫性に欠けるというイメージを与えかねない(もちろん、こうした規定が戦力の保持を正当化するという点でも望ましくない)。

四、国民の権利及び義務
《新しい権利》から引用
「環境権とともに『環境保全義務』に関する規定を設けるべきである」

(感想)『環境保全義務』とは個人・企業に対する規範であろうが、それだけでなく、国の責務を規定しなければ実効性がなく、どうしても条文化するのであれば、むしろ国の責務を「制度的保障」として規定するべきだろう。

同《新しい権利》から引用
「IT社会の進展に対応した『情報開示請求権』や『プライバシー権』に関する規定を設けるべきである」

(感想)現行一三条で飽き足らず、なぜ敢えてプライバシー権を条文化したがるのか。政治家や官僚といった公的人物の情報秘匿を狙いにしていると勘ぐられても仕方がない。そもそも情報開示請求権は、現行情報公開法を適切に運用することで、ことさら憲法上規定しなくとも事足りると思われる。

同《新しい権利》から引用
「科学技術の進歩に対応した『生命倫理に関する規定』を設けるべきである」

(感想)クローン技術について釘をさす狙いがあるのだろうが、これは国民(研究者や研究チーム)への規範だから、憲法として規定するには不適切。

同《新しい権利》から引用
「知的財産権の保護に関する規定を設けるべきである」

(感想)これも憲法上規定するほどのことではなく、現行一 三条や二九条で十分保障可能なはず。

同《新しい権利》から引用
「現憲法は被告人(加害者)の人権に偏っており、犯罪被害者の権利に関する規定を設けるべきである」

(感想)ほんらい憲法は、国家権力からの不当な権利侵害を防ぐ為に存在しているが、この規定は、国民vs国民の構図になっており、憲法上の話題ではなかろう。まさしくこれは昨今の犯罪事情をふまえた規定ゆえ、ともすれば世論の支持を得やすいとプロジェクトチームは考えているようだが、犯罪被害者の〃権利〃は誰に対しての権利なのか? 憲法を学んだ者なら、その可笑しさにすぐ気付く。
そもそも自民党を含む改憲勢力は、現在の憲法が〃時代に合わなくなった〃から改正すべし、との論調であるが、本条項はおそらく10年も経たない近い将来、その存在意義が疑われる最たるものではないだろうか。

《公共の責務》から引用

「社会連帯・共助の観点からの『公共的な責務』に関する規定を設けるべきである」

(感想)今回のプロジェクトチームが固執するのが「社会連帯」「共助」という用語。法律上、こうした抽象的な用語を使用する危険性については既に指摘した。前文を〃抽象的〃〃意味が分らない〃と罵倒する者が自家撞着に陥っている。

《公共の責務》から引用
「国の防衛及び非常事態における国民の協力義務を設けるべきである」

(感想)安全保障の章とワンセットで用意しているものである。国民の協力なくしては自民党が言うところの防衛はまっとうされないからだろう。しかし、これは戦前の国家総動員体制に立ち返ってしまうことを意味するに他ならない。非常に危険な文句である。

《見直すべき規定》から引用
「婚姻・家族における両性平等の規定(現二四条)は、家族や共同体の価値を重視する観点から見直すべきである」

(感想)仮に、家族や共同体の価値を重視することが大切だとしても、何故に現二四条を見直すことになるのかが説明つかない。家族や共同体における男女の役割分担など、法的に正当化するものがあるのだろうか。戦後勝ち取ってきた女性解放や男女共同参画社会構想はどうなってしまうのか。

同《見直すべき規定》から引用
「政教分離規定(現二〇条三項)を、わが国の歴史と伝統を踏まえたものにすべきである」

(感想)戦前の国家神道が多くの悲劇を招いた反省のもと、現二〇条が登場したという立法趣旨を捨象してしまうような意見。靖国公式参拝を正当化することが見て取れる。

五、国会及び内閣

《共通認識》から引用
「政治主導の政策決定システムをより徹底させるとともに、……スピーディーに政治判断を実行に移せるシステムとすべきである」

(感想)近代国家の統治機構は、国民代表たる議会をメインとした三権分立を基本とする。たしかにイギリスのような行政府主導の統治運営もみられるが、だからといって憲法上、政治部門が主導すべき、という要請を条文上設ける必要はない。ましてや、政治にはスピードが重要であるとか何とかは、語られる議題によりけりで(慎重に議論すべき問題もあるから)、憲法上の指針にすべき事柄ではない。

同《共通認識》から引用
「現在の二院制については、両院の権限や選挙制度が似通ったものとなっている現状をそのまま維持すべきではなく、何らかの改編が必要である」

(感想)ここには、@参議院を廃止した一院制を主張する説と、A連邦制における州代表やイギリスの貴族院制のような、次元の違う参議院を設立する説とがあるようだ。@については、参議院の存在意義(拙速な法律制定を抑制する)を軽視する考えであるし、また、国民代表を減らすことによる主権者の意思の表出機会剥奪という問題が生ずる。

《改正意見》から引用
「議事の定足数(現五六条一項)は、削除すべきである」

(感想)ある程度出席者が揃わないまま議事を開始し、法律や予算を可決されてはたまらない。これは与党の抜き打ち・自己都合による国会運営に結びつく危険がある。

六、司法

《共通認識》から引用
「政治部門が行う政策決定・執行に対する第三者的な立場から憲法判断をする仕組み(憲法裁判所制度など)について検討すべきである」

(感想)この意見は意外だった。現行制度では付随的審査制(具体的な事件を解決する手段として違憲審査制が行われるに過ぎない)となっており、フランス流の抽象的審査制の可能性を匂わせる。ただしフランスがそうであるように、法律が成立してしまった後で当該法律の合憲性を審査することが不可能になるような制度になってしまうのは疑問。

《改正意見》から引用
「最高裁判所裁判官の国民審査の制度(現七九条)は廃止(すべきである)」

(感想)現行憲法では、裁判官の独立を保持する一方で、民主的統制の余地を残す意味で国民審査が規定されていたが、これが廃止されると、政治部門の任命だけが生き残る形となる。確かに、これまで国民審査によって罷免された裁判官は皆無だが、だからといって本制度の存在意義自体が失われたとするのは拙速。

同《改正意見》から引用
「一定の場合には裁判官の報酬を減額することができる旨の明文規定を置くべきである」

(感想)@一定の場合とは何か? A報酬を減額することを決定する者は誰か? の二点疑問である。@について、一定の報酬を与えることにより裁判官の独立を保障するというのが現行憲法である(七九条)ので、一定の場合の要件がいい加減では、裁判官の職務の独立にマイナスをもたらす。Aについて、現行制度では、行政権が裁判官を懲戒することは禁じられている(最高裁のみ)が、この規定は、行政権による裁判官の懲戒可能性を許す余地を与えかねない。


七、財政

《改正意見》から引用
「現憲法八九条を書き直し、私学助成に関する明文規定を置くべきである」

(感想)何故か自民党議員のなかに、現行の私学助成金が八九条に反する、という意見が多かったことを受けてのものだろう。しかし現行八九条は、私立学校であっても与えられた助成金の使途について、文部省へ報告する義務が課せられていることから、八九条の「公の支配に属」する団体であることが学説上も認知されているので、ことさら改正する必要を感じない。

八、地方自治

《改正意見》から引用
「いわゆる『道州制』を含めた新しい地方自治のあり方について……基本事項を明示すべきである」

(感想)自民党は一方で地方分権を「より一層推進する必要がある」と論じているが、他方では市町村合併や道州制をも取り入れたいという。道州制が地方分権と逆行するように感じるのは自分だけだろうか。

九、改正から引用
「現憲法の改正要件はかなり厳格であり、これが、時代の趨勢にあった憲法改正を妨げる一因になっていると思われる」

(感想)何度も述べたとおり、憲法は、今後いかなる社会状況になっても不変の価値を規定した規範のはず。「時代の趨勢にあった」憲法なんてものは、既に憲法ではない。

「例えば『各議院の総議員の三分の二以上の賛成』を『各議院の総議員の過半数』とし、あるいは、各議院において総議員三分の二以上の賛成が得られた場合には、国民投票を要しないものとする等の緩和策を講ずるべきでないか」

(感想)〃国会が制定する〃法律と異なり、〃国民が制定する〃のが憲法であるが、国民投票を不要とする意見は、憲法を一般の法律と同等の性格としてしか見ていないようで、プロジェクトチームが甚だ不勉強であることを露呈している。

 以上、プロジェクトチームによる『論点整理(案)』を逐一検討してみたが、これまでも我々はこうした改憲案に対して「立憲主義の何たるか、を分かっていない」と飽きるほど批判してきた。しかし政治権力というものは、非情にもそうした原則論をお構いなしに破壊していくものであるという。我々は政治権力を批判する以上に、多くの国民に訴えて草の根からの改憲阻止の連帯行動を起こさなければならない。しかし国民レベルに蔓延する政治的無関心という分厚い〃壁〃を解体することもまた、大きな難題である。

 

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