Q1.有事法って何? それをつくることの意味は?

A.「有事」法は「戦争」法

 2002年4月、小泉純一郎内閣は、戦争を行うための法整備である、いわゆる 「有事法制三法案」(武力攻撃事態法案、自衛隊法改正案、安全保障会議設置法改正案)を国会に提出し、その成立を図ろうとしています。
まさにこれは、あらゆる戦争を放棄し、戦力を持たないことを規定した日本国憲法第九条を根底から覆すような試みに他なりません。
戦後半世紀余り、いわゆる「大国」「先進国」で唯一、日本がまがりなりにも戦争の直接の被害者や加害者にならないで来たことを担保し、日本の平和・人権・民主主義を確立させる原動力でもあったこの憲法は、それゆえ国民に強い支持を受けてきました。だからこそ歴代の自民党政権は明文改憲を強く欲しつつも実際に着手することはできないで来たわけです。
 
 しかし、この有事法は、結局のところ、「いかに戦争をやるか」ということを詳細に定めるための法整備ですから、戦争を徹底的に否認する平和憲法と到底相容れるものではありません。もしかすると、国民の強い支持がある九条の改正は当面はできそうもないので、この際九条をこの有事法制によって実質的に停止するというのが今回の政府の試みかもしれません。
これではまるで、「平和のときは平和憲法がちゃんとあり、しかし戦争のときだけ平和憲法はなくなる。そう、平和憲法それ自身はなくなりません。我々政府は、戦争のときだけ戦争をするんですよ」(ダグラス・ラミス)、などとでも言っているようではありませんか。まるでブラックジョークです。
 
 そう、「有事」法とは、大震災や大災害といった「憂い」への「備え」のための法律ではありません。有事法とは、まさに政府が戦争を効果的に行うために、戦時に人権や民主主義をいかに制限するかを前もって法律で定めておこうとするものに他ならないのです。これは、軍事目的のためであったら、国民の自由も人権も、そして民主主義も制限されるのは当然という発想に基づくものです。本人の意思を問わず、戦争のために、徴兵(兵役の強制)、徴用(労働の強制)、徴発(物品・所有物の強制収用)を、合法のお墨付きの下で、行おうとするものでもあります。

 日本で有事立法が最初に問題となったのは、「三矢図上研究」 (正式名称は「昭和38年度統合防衛図上研究」) でした。当時、社会党の岡田春夫議員が国会で政府を追及して問題となりました。(1965年2月10日衆議院予算委員会。首相は佐藤栄作、防衛庁長官は現首相の父である小泉純也。) 
この「三矢図上研究」は、極秘裏に、制服組がまとめたものとされています。それは、朝鮮戦争が再発し、日米共同作戦が展開され、国民の権利、民主主義、日常生活を完全に押さえ込むような87本にもわたる戦時法令をわずか二週間で国会を通過させるという想定に基づくものでした。そして、これは、戦前戦中の戦時法令を下敷きに作成されたもので、かつての「国家総動員法」(1938年制定)などとも多くの類似性が見られます。
ちなみに国家総動員法の第一条では、「国家総動員とは戦時(戦争に準ずべき事変の場合を含む、以下之に同じ)に際し国防目的の達成の為国の全力を最も有効に発揮せしむる様人的及物的資源を統制運用するを謂ふ」と規定されていますが、つまりこれは、戦時において「国防目的」のために、いかに人と物を有効に活用するかという観点から、そのために人間も物品も国家の命令で取り上げ、総動員するということを定めたものです。

 もっとも、この「三矢図上研究」は、冷戦時代の頃の研究ですから、今の政府が当面想定している有事法制がこの頃のものと全く同一のものであるわけではないのですが、しかし、国家が、戦争を行おうとする際に必要とされる措置・法整備がどういったものであるかということを考える上で、大変参考になるように思われます。
 その後、1977年からは、福田赳夫内閣の下、この有事法研究は、政府の正式な研究に格上げされました。
そして、1981年と1984年に防衛庁の中間報告が出されるなどして、現在に至ります。そこで検討された法整備の内容が今回の法案にもストレートに反映しています。

 結局、現在までの有事法の研究やその案をつぶさに検討してみると、根本の構造において、
1.国家の優越と人権の軽視
2.危機に対する武力中心の対応
3.平時法制の一括適用除外
4.国民生活の全面統制志向
などの点で、明治憲法体制下の緊急権思想、国家総動員法や戒厳令の発想からあまり変わっていないことを実感せざるを得ません。
結局、有事法をつくることの意味とは、戦争を効果的に行うこと、そのために国民を動員することに他なりません。

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